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第1章 なぜ伝わらないの? ~コミュニケーションの不思議~ (1)

1-1 あなたの言葉は相手によって解釈される

【事例】第1話 さとしのラケット

暖かい日差しが街中を包んでいる。今日から4月、新たな学期がスタートする月だ。あなたは、いつものように10時過ぎに大学行きのバスに乗り込んだ。バスは新入生のおしゃべりで溢れかえっていた。話し声はするものの、バス中に1年生ならではのぎこちなさが充満している。
そんな時、あなたの友人であり同じテニス部部長のさとしが声をかけてきた。

おはよう!4月ならではの混み具合だよなぁ。いやになっちゃうぜ

 バスの中でさとしの大声はいつも以上に響いた。新入生が驚いた様子でこっちを見ている。
恥ずかしい気持ちになったあなたが、目を伏せると、さとしの手元にま新しいテニスバックが見えた。

さとし、それ買ったの?新しいバック?

と、思うだろ?実は新しいのはバックだけではないのです!実はテニスラケットも買っちゃった!

というと、さとしは混雑するバスの中でわざわざラケットを見せてくれた。青と黒がグラデーションになっているフレームに、蛍光色のガットが張られている。

高かったんだぜ。春休みに必死にアルバイトした金、全部つぎ込んじゃったよ。

ということは4万くらい?

ばーか違うよ。これ、10万すんだよ!4万なんて安い安い。

よくよく聞くと、さとしは春休み10日間、ずっと日給1万3千円の日雇いのアルバイトをしたらしい。あなたはというと、馴染みの喫茶店で自給600円のアルバイトを気が向いたときにしていた程度。そんな調子だったからあなたが春休みを使って稼いだお金は4万程度だったのだ。

(あー、もっと働いて俺もラケット買えばよかったなぁ・・・)

【解説】人によって言葉の解釈が異なることに要注意

言葉とは、人それぞれの尺度で解釈されています。例えば、「熱い」という表現も、人によって熱いと感じるレベルが違ってきます。そのため、コミュニケーションをする際も、あなたが考えた意見が、あなたが考えることと全く同じように、相手に伝わることはありません。投げかけた言葉は相手の解釈に委ねられるため、度々齟齬が生まれてしまうのです。
第1話の会話の中で、さとしが「高いラケットを買った」事を教えてくれました。しかも、その高さはアルバイトをしたお金を全てつぎ込むほどだったそうです。その情報をきいて“あなた”は4万円だと想像しました。それは、あなたが春休みに行ったアルバイトの合計金額が4万円だったからです。このように、言葉は相手の経験や知識を使って解釈されるのです。つまり、ここではさとしの言った「高い」という言葉に、さとしが想定しない様々な意味が生まれてしまっていたという事になります。さとしにとっての「高い」とあなたにとっての「高い」は意味が違うのです。
さらに、その後にさとしが言った「これ、10万円するんだよ。」という表現に注目してください。ここでさとしは数字を使って“金額の高さ”を説明しました。このように、数字を使い説明をすることはコミュニケーションの齟齬を生まないための重要なポイントです。数字を使うことにより誰もが共通の認識を持つことができます。10万は私にとっても、貴方にとっても10万という同じ意味を持つからです。

これは、「セマンティクス(Semantics=the study of the meaning of words and other parts of language by Longman Dictionary)の共通化」と言う作業です。

補足:セマンティクスの共通化
数字がコミュニケーションにおいて強力なのには根拠があります。それは数字を用いた表現が多くの人に共有な認識として受け取られるからです。例えば、沢山のお菓子と言った場合、人によって“沢山”を判断する基準が違うので頭の中ではお互いがそれぞれの基準でお菓子の数を想像している場合があるのです。これが数字を用いて「10個のお菓子」と表現した場合は先ほど「沢山のお菓子」と比較すると多くの人に同じ認識で受取られるようになります。

 この世に読者であるあなたと全く同じ考えをする人間などいません。つまり、他者と言葉を交わすコミュニケーションにおいて、自分の発した言葉をあなたの思うとおりに解釈してくれる人はいないということです。
コミュニケーションは伝わらないのが前提なのです。それをいかにして齟齬なく伝えるかを考える事が大事なのです。

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第1章 なぜ伝わらないの? ~コミュニケーションの不思議~ (2)

1-2 あなたの言葉は相手によって解釈される

【事例】第2話 アイディアだけじゃ伝わらない

あなたが通う大学には、美味しい学食があります。そこで、あなたがテニス部の仲間たちとご飯を食べていると、テニス部のOBで今は出版社に勤めている努先輩がやってきました。努先輩は、学食が安いことを理由に、卒業した後もお昼を学食で食べている変わった先輩です。

よぉ、お前たち。いよいよ3年生だよな。

つとむさん、今日も学食でお昼っすか?

ここ、安いから離れられねぇよ。そういえば、お前たちも就職活動が始まるだろ?どこ受けるとか決めてんのかよ?

俺らは、つとむさんのいるA出版受けますよ。

なんか、先輩見てると毎日学校来てるし、楽しそうだし、いーなーって思って

おー、そうかそうか。じゃ、うちの会社入って何やりたいのか、ちょっと話してみろよ。

いきなりの振りに、あなたもさとしも戸惑いながら、会社に入ってやりたい事を話し始めた。

俺は、A出版に入ってテニス専門誌をつくりたいです。

俺もテニスの専門誌つくりたいです。今テニスの雑誌って超少ないっす。ラケットやシューズを買うときとか、本当に困るんですよね。それぞれのスポーツメーカーのカタログだと、褒める記事しか書いてないから、本当のところがわからないし。こう、ドカーンと大胆な構図で色んな会社のテニスシューズがカラフルに並べられて、通販で買えちゃうようなそんなページ担当したいっすね。

つとむはお気に入りの焼肉定食を食べながら二人の話を聞いていた。そして、二人が話し終わると同時に、深い溜息をついた。

今の段階じゃ、さとしが及第点で、お前は失格だな。

え、俺のどこがだめだったんすか?確かにさとしみたいに長くしゃべれなかったけど。だいたい、先輩ちゃんと聞いてなかったじゃないですか・・・、食べながらだったし・・・。

俺はちゃんと聞いてたよ。じゃぁ、はっきり言ってやろうか。お前のダメなところはな、アイデアだけで語ったところだよ。

アイデアだけで語った・・・・???? え、それどういう意味っすか?わけわかんないっす。

お前呼ばわりされたあなたは、真っ赤な顔をしてつとむに迫っていく。そんな二人の様子に、周りの部員は息を呑んでいた。

【解説】アイディアだけじゃ伝わらない

ビジネスの現場でも就職活動でも、よく「考えを述べよ」という設問に出会います。
そのとき自分のアイデアを“そのまま”“それだけで”述べてはいけないのです。それは、考えやアイデアは評価が難しいからです。
実際、第2話で主人公のあなたが語ったアイデア「テニスの雑誌を創りたい。」は、良いも悪いも評価ができない答えです。一方で、さとしの意見はアイディアだけでなく、浅いとはいえ、なぜそれを考えたかという「根拠」まで語られています。ここまで語る事が出来ると、話す相手があなたの考えやアイデアがどのようなものなのかを正確に理解できる手がかりが生まれます。さとしは、根拠から想像すると、テニスのグッズが各社比較できるような特集があり、さらにはそれを誌上通販で買える雑誌をつくりたいようです。ここまで伝わると「テニスの通販雑誌は他にもある」とか「グッズの比較はネットで盛んに行われている」など、その意見に対して初めて良い悪いの判断ができます。このようにお互いの意見をぶつかり合うところまできて初めて、相手に伝わったといえるのです。

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