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2009 年 2 月 4 日

第1章 なぜ伝わらないの? ~コミュニケーションの不思議~ (1)

カテゴリー: 第1章 – admin – 9:35 AM

1-1 あなたの言葉は相手によって解釈される

【事例】第1話 さとしのラケット

暖かい日差しが街中を包んでいる。今日から4月、新たな学期がスタートする月だ。あなたは、いつものように10時過ぎに大学行きのバスに乗り込んだ。バスは新入生のおしゃべりで溢れかえっていた。話し声はするものの、バス中に1年生ならではのぎこちなさが充満している。
そんな時、あなたの友人であり同じテニス部部長のさとしが声をかけてきた。

おはよう!4月ならではの混み具合だよなぁ。いやになっちゃうぜ

 バスの中でさとしの大声はいつも以上に響いた。新入生が驚いた様子でこっちを見ている。
恥ずかしい気持ちになったあなたが、目を伏せると、さとしの手元にま新しいテニスバックが見えた。

さとし、それ買ったの?新しいバック?

と、思うだろ?実は新しいのはバックだけではないのです!実はテニスラケットも買っちゃった!

というと、さとしは混雑するバスの中でわざわざラケットを見せてくれた。青と黒がグラデーションになっているフレームに、蛍光色のガットが張られている。

高かったんだぜ。春休みに必死にアルバイトした金、全部つぎ込んじゃったよ。

ということは4万くらい?

ばーか違うよ。これ、10万すんだよ!4万なんて安い安い。

よくよく聞くと、さとしは春休み10日間、ずっと日給1万3千円の日雇いのアルバイトをしたらしい。あなたはというと、馴染みの喫茶店で自給600円のアルバイトを気が向いたときにしていた程度。そんな調子だったからあなたが春休みを使って稼いだお金は4万程度だったのだ。

(あー、もっと働いて俺もラケット買えばよかったなぁ・・・)

【解説】人によって言葉の解釈が異なることに要注意

言葉とは、人それぞれの尺度で解釈されています。例えば、「熱い」という表現も、人によって熱いと感じるレベルが違ってきます。そのため、コミュニケーションをする際も、あなたが考えた意見が、あなたが考えることと全く同じように、相手に伝わることはありません。投げかけた言葉は相手の解釈に委ねられるため、度々齟齬が生まれてしまうのです。
第1話の会話の中で、さとしが「高いラケットを買った」事を教えてくれました。しかも、その高さはアルバイトをしたお金を全てつぎ込むほどだったそうです。その情報をきいて“あなた”は4万円だと想像しました。それは、あなたが春休みに行ったアルバイトの合計金額が4万円だったからです。このように、言葉は相手の経験や知識を使って解釈されるのです。つまり、ここではさとしの言った「高い」という言葉に、さとしが想定しない様々な意味が生まれてしまっていたという事になります。さとしにとっての「高い」とあなたにとっての「高い」は意味が違うのです。
さらに、その後にさとしが言った「これ、10万円するんだよ。」という表現に注目してください。ここでさとしは数字を使って“金額の高さ”を説明しました。このように、数字を使い説明をすることはコミュニケーションの齟齬を生まないための重要なポイントです。数字を使うことにより誰もが共通の認識を持つことができます。10万は私にとっても、貴方にとっても10万という同じ意味を持つからです。

これは、「セマンティクス(Semantics=the study of the meaning of words and other parts of language by Longman Dictionary)の共通化」と言う作業です。

補足:セマンティクスの共通化
数字がコミュニケーションにおいて強力なのには根拠があります。それは数字を用いた表現が多くの人に共有な認識として受け取られるからです。例えば、沢山のお菓子と言った場合、人によって“沢山”を判断する基準が違うので頭の中ではお互いがそれぞれの基準でお菓子の数を想像している場合があるのです。これが数字を用いて「10個のお菓子」と表現した場合は先ほど「沢山のお菓子」と比較すると多くの人に同じ認識で受取られるようになります。

 この世に読者であるあなたと全く同じ考えをする人間などいません。つまり、他者と言葉を交わすコミュニケーションにおいて、自分の発した言葉をあなたの思うとおりに解釈してくれる人はいないということです。
コミュニケーションは伝わらないのが前提なのです。それをいかにして齟齬なく伝えるかを考える事が大事なのです。