collaboyou教材ページ


エピローグ

恋の行方
明日からいよいよインターンが始まる。あなたは、大学の生協で名刺入れを選んでいる。すると、後ろから聞きなれた男女の声がしてきた。声のする方を見ると、そこには男性ファッション雑誌のコーナーで楽しそうにしゃべっているさとしとまりの姿があった。
あの告白の後、さとしはまりに逆告白をし、二人は付き合うことになったのだ。

・・・あーあ、結局寂しい夏休みを過ごすのは俺だけか・・・。

俺も・・・・寂しい夏なんだな

振り向くと、そこにはまたつとむが。

つとむさん!いつの間に・・・・!? ってか、あなた大学に居すぎですよ!

―完―

カテゴリー: 第7章 –  

第6章 コミュニケーションのリスク

最終話 インターンシップの合格

 あなたの1人暮らしの家にさとしが遊びに来ている。今日から待ちに待った夏休みがはじまり、その計画を二人で立てているようだ。ダラダラと二人で旅行雑誌を見ているときに、あなたの携帯電話が鳴った。

はいもしもし。・・・・はい!・・・・ありがとうございます。精一杯頑張りますので宜しくお願いいたします!はい、それでは失礼致します。

 携帯を切ったあなたは、さとしの方に振り向いて大きくガッツポーズをした。

俺、やったよ!インターンシップ合格だってさ!

・・・・・・お、おめでとう。・・・や、やっぱお前はすごいよな。

 そのとき、さとしの携帯も成り始める。さとしは、知らない番号が表示されたディスプレイをみつめ、「頼むぞ」とつぶやき電話を取った。

はい、宇都宮さとしです。はい・・・・。・・・・ありがとうございます!精一杯頑張ります。それでは2週間宜しくお願いします!

よっしゃーーーーーーーーーーー!

携帯を手においたさとしとあなたは、大きくハイタッチをした。

これで、俺らの就職活動も本格的にスタートだな

おう!これからは、もっとコミュニケーション力高めとかないとな

コミュニケーション力はもうそろそろ大丈夫だろ。それより中身だよな。

あー、そうだよな。意見と根拠をいうようになってから、自分の中身のなさが目立つようになってきた気がするもんな

だよな、やっぱりさとしもそう思うんだ。

【解説】 論理力身につけると等身大のあなたが丸見え

今回お伝えしたコミュニケーション術にはリスク(危険性)があります。それは、この本で紹介する術を用いて情報を発信すると相手に自分の等身大の姿が伝わるということです。それは、自分の考えが準備でき、その考えを支える質、量ともに十分な根拠、その根拠を取り出せす源(引用先)である十分な知識を持っている人にとっては恐れることではありません。飛躍的に世界が広がります。
しかし、就職活動のためだけに少しの間ごまかしたいという方には逆に準備していない自分の姿を発信することになります。つまり、論理的なコミュニケーション力をみにつければつけるほど、あなたが中身のある人間か否かが丸見えになるということです。これがコミュニケーションのリスクです。
そこでその克服法を説明します。私から見るとコミュニケーションに自信を持っている人ほど、自分の意見を支える根拠と根拠の源となる知識を増やす活動を疎かにしていて、コミュニケーション術ばかりを練習している人が多いです。その時間があるのであれば、知識を広げることに時間を使ってください。
実際、コミュニケーションは難しいものではありません。今回お教えした少しの“術”を覚えれば誰もがある一定以上のレベルに到達できます。その意味で多くのノウハウ本や最近では塾などでも特別な書き方や技法を教えているところもあるようですが、私は、それはコミュニケーションのスペシャリストを養成することを目的にしていると思います。コミュニケーションで業をなすならそれを学ぶ必要はあるでしょうが、コミュニケーションが手段であるとしたら、コミュニケーション“術”の習得を早々に切り上げて、コミュニケーションの中身の充実 に時間を割く-。そうすることでこの項の冒頭に説明したリスクは克服できるはずです。

カテゴリー: 第6章 –  

第5章 構築する

5-1 自分の意見(主張)と知識を根拠として結びつける

エントリーシートを無事に提出した二人は、夏休みの計画について話をしています。

夏休みは、どっかに遊びに行きたいよな。でもさぁ、どこに行くにしても男同士っつーのは味気ないよなぁ。あー彼女ほしー!!

おいおい、大声出すなよ・・・。

そこに、いつものようにマネージャーのまりが大きく手を振りながら走ってきた。

さとしせんぱーい。何してるんですか?

お前はいっつもついてくるよな。何で俺に付いて来んだよー、もしかして俺のこと好きとか?

・・・・・・

え・・・・・

まりは急なふりに顔を真っ赤にしていた。そんなまりの反応に、あなたもさとしも戸惑い無言が続く。そんな空気の中、まりが堰を切ったようにしゃべりだした。

そうなんです!私先輩のこと好きなんです。先輩の部活動を率いるリーダーシップを見てて頼りになるなぁって思ってて・・・、あといつも明るくしゃべっているところに元気をもらってるし・・・、先輩の服のセンスも好きだし、テニスが上手いところなんて本当にカッコイイし・・・。とにかく先輩のこと好きなんです。

まりは、そういうと返事もきかずに走り出した。さとしは、ただ呆然とするばかりで、しばらく何も考えられないようだ。

・・・・・・

良かったな、彼女できそうじゃん。で、返事どうする?

【解説】誰もが出来る論理型
皆さんがこれまで書いてきた文章で最も身近なものは感想文ではないでしょうか。その中でも夏休みの読書感想文は誰しもが経験してきた例でしょう。実は評価を得る感想文を書くのは、とても難しいことなのです。
まりの告白の場面を見てください。まりはさとしを好きだという理由を(混乱しながらも)しっかり伝えていますね。これは意見に根拠をつけているので、論理型であると言えます。一方、皆さんがこれまで学んできた感想文とは、感性で書く文章なので、意見と根拠というセットで語る必要はありません。本書では、そのような表現方法を感性型と呼びます。感性型で告白するとしたら、歌にして思いを伝える方法もあるかもしれませんし、ひたすら好きということを叫び続けてもいいでしょう。相手に伝わり告白が成功するなら、なんでもありです。皆さんに人気の歌手が、プロポーズの時に歌を作ったなんて話を一度は耳にした事があると思います。それこそ、究極の感性型のコミュニケーションですね。
しかし、感性型のコミュニケーションとはとても難しいものです。一種の才能が必要とされます。一方で論理型は、極端な言い方をすると意見に根拠をつけさえすればいいのですから、誰でも簡単に行えるコミュニケーション方法です。論理型は鍛錬する事によって、根拠が洗練されていき、より相手に伝わるコミュニケーションが可能になりますが、感性型は練習をすればいいというものではありません。
あなたはどちらで勝負しますか?

カテゴリー: 第5章 –  

第4章 もっと“聴く”(1)

4-1 伝えるためには知識を貯めよう
【事例】第5話 聴くことの重要性

今日は春学期の授業最終日。来週から始まるテストに向け、多くの学生が大学内の図書館に集まっている。ノートのコピーをとったり、本を探したりと大忙しだ。
さとしとあなたも、前期の試験に向けて勉強の真っ最中。ただ、夏のインターンシップのエントリーの締め切りも迫っているようで・・。

テスト勉強もやべぇけどさ、お前エントリーシート書いた?

一応書いたけどさ、書く事が少なくって文字が埋まんないんだよな。

俺もなんだよ・・。でもな、あまりにも書くことねぇから、1週間前から色々調べはじめたんだ。

えぇ!?

例えば、俺がリーダーシップを持っているっていうことを主張したいんだけどさ、経験だけじゃなんとなく自己陶酔に見える気がしてさ、リーダーシップに関して本を読んだりとか講演きいたりとかしてみたんだよね。そしたら、自分がやってきたマネジメントが、客観的に解説できるようになったんだよ。

 実際に、さとしのエントリーシートはリーダーシップがあることを証明するための根拠が豊富になっていた。あなたは少しの間に差をつけられたと感じた。

やばいな、出遅れたみたいだ・・・。根拠をつけるためには、色んな事を知る必要があるのか・・・

【講義】聴くことで知る

自分の意見を主張するためには、根拠が必要であることはもうお分かりいただけたと思います。では、その根拠はどこから持ってくればよいのかというと、『”知識の海”』からです。『自分の意見(主張)を支えてくれる根拠をその都度“知識の海”から探してくること』がコミュニケーションなのです。知識は”聴く”ことによって入手できると考えています。ここで言う“聴く”は英語で言うCaptureに近いです。何か新聞を読んで入手した知識も”聴く”に入るし、何かの著作を読んで入手した知識も”聴く”に入ります。有名な人の講演を聞いて得た知識も”聴く”に入れて考えています。また、自分が海外に行って異文化交流を体験した、高校で部活動等の部長を務めたなどという”経験”も聴くに入ると考えます。
さとしは、まさしくこの“聴く”作業をすることで、自分の意見に対する根拠を厚くしたようです。

カテゴリー: 第4章 –  

第4章 もっと“聴く”(2)

4-2 聴いた情報を分けて整理する
【事例】第6話 事実と経験で分けて整理する
今日は試験の最終日。さとしもあなたも今日で試験が全て終わったようだ。前日徹夜で試験にのぞんださとしは、試験が上手くいったことで、変なテンションになっている。

よっしゃー!テストも終わった!後は夏休みだけだっ!!ラリホー♪

おいおい、エントリーシートは提出したのかよ?

あ、やべぇ、わずれでだー。うー、今日はもう眠りてぇ・・・。

おい、眠る前にさ俺のエントリーシート見てくれない?この前さ、お前が調べて根拠増やしてるの見てさ、おれもやってみたんだよ。

さとしがあなたのエントリーシートを見ていると、またもやつとむ先輩登場です。

おーっと、徹夜明けの仲良し二人組はっけーん!

(つとむさん、大学に来すぎだよな・・・。この人本当に働いていんの?)

なに、二人でこそこそ話してるんだよ。お!二人でエントリーシートの見せあいっこですか?仲良しでしゅねー。どれどれ、俺にもみせてみろよ!

そう言うと、つとむは二人のエントリーシートを読み始めた。

ほー、二人ともレベル上がってるじゃねーか。ちゃんと“聴く”作業してるって伝わってくるよ。いいねいいね。そんな頑張っている後輩にちょっとアドバイスしちゃおかなぁ。

何っすか?
何ですか?

沢山“聴いた”情報はな、いづれは根拠になるわけだ。で、根拠には、事実と非事実と2種類ある。それを上手く使いこなすためには、聴いたときにこの2種類で整理しておくことなんだなぁ~。

根拠を整理?

【解説】聴くを2つに分けて整理する

大量な量の”聴く”を2つに分けて考えます。1つは経験を源とした”聴く”でこれは自分が主語となって蓄積されます。もう1つは事実を源とした”聴く”。これは経験以外の全てが含まれます。このように”知識”を貯める時に整理して入れることでそれを使う時-自分の意見を支える根拠として使う時-に大変便利かつ、効率的になります。

カテゴリー: 第4章 –  

第3章 相手に“伝える“方法(1)

3-1 人が覚えられる量には限界がある

【事例】第4話 大学の授業内容を人に伝える 

月曜日、さとしとあなたは大学の授業に出ていた。今日の授業はコミュニケーション論の授業だ。さとしもあなたも久しぶりに真面目に授業を受け、終了と同時に学食へ向かっている。

今の90分、面白かったよな

だよな、久々に真面目に授業受けた気がするよ。特にコミュニケーションの話は面白かったよな。

学食までの道を歩きながら二人が授業の内容を振り返っていると、後輩のテニス部マネージャーが駆け寄ってきた。

さとしせんぱーい。今日の練習試合の対戦表もって来ました!!ところで、二人でさっきから何の話してたんですか?

今受けてきた授業がさぁ、超面白かったから、振り返ってたんだよ。

えーまりも知りたいなぁ。どんな内容だったんですか?

コミュニケーションは相手に伝わらないのが当たり前だって話だよ

他には??

え、他には・・・・

あれ?90分授業ですよね?

さとしとあなたは授業の内容が面白いと感じつつも、まりに復元して伝えられた内容はわずかワンメッセージだった。

(・・・・あんなに色んなこと聞いて面白いと思ったのに、実は全然覚えてないな。)

【解説】人の記憶量には限界がある

人が記憶できる量には限界があります。だからこそ、一番伝えたいメッセージは短く、簡潔にする必要があるのです。
人の記憶の限界に関しては、これまでの自分の生活を思い出してみても明らかだと思います。90分の授業をきいて、一語一句全てを覚えることは容易ではありません。忘れないために、授業をノートにとる場合でさえ、すべてを写すことはできないはずです。だからこそ、私達は知らず知らずのうちに、相手からのメッセージを取捨選択しているのです。あなたとさとしの場合は、90分の授業の中で教授が授業の冒頭で述べた「コミュニケーションは相手に伝わらないのが当たり前」というメッセージが印象的に感じ覚えていました。

伝えたい相手に伝えたい内容をちゃんと記憶してもらうためには、メッセージを短く絞り簡潔に伝える必要があります。
このことを、「貴方が現在置かれた環境に関して自分自身の意見を400字で述べよ。」というテーマで書かれた400字の文章に沿って考えてみましょう。

【文章例】
自分は、すごい環境にいます。『すごい』には根拠があります。第一に、1人で10個以上の性格が異なるプロジェクトを抱える環境です。その分野は地域関係からアジア問題、新規技術から業界標準化など多岐に及びます。従って、自分の仕事に直接の参考となるテキストはありません。その背景には、自分の仕事や研究が定形化されていないという要因が影響しています。第二には、その場で自分の意見を主張することが求められることが連続する環境です。ただ考えを述べるのは許されません。自分が述べた考えによりコミュニケーション相手に活発に議論を始めさせたり、時には相手に行動を促すことが求められます。第三には、肩書きとかの権威が使えません。ある場所で通用した知識や肩書きが次の現場では通用しないのです。東京の大企業の前ではプラスに通用する研究所(ラボ)の副所長の肩書きは、別の場所では、逆によそ者として怪しまれるマイナスに作用する原因なのです。

自分の考えに相当するのは、この回答例でいうと最初の15文字“自分は、すごい環境にいます。”です。アイデアが15文字以内など字数は決まっているものではありませんが、簡潔に表現することで、書く自分も読み相手もわかり易いです。また、最初に結論を書いておくことで、相手が取捨選択しやすくなり記憶に乗り懲ります。全体が400字であればその20%、最大80字程度でしょう。
自分の意見は短く、簡潔に。その意味では、まず文章の一番冒頭で自分の意見(主張)を簡潔に書いてしまうのは1つの有効な手法です。

補足 レポートも最初に結論を書く
レポートを書くときに、前置きから書き始めてダラダラと文章を書き連ねていて、ふと気付いたら「何を書いていたのかわからなくなった・・・」という経験はありませんか?
それを防ぐためにも、最初に意見を書いてしまうことは有効な手段です。

カテゴリー: 第3章 –  

第3章 相手に“伝える“方法(2)

3-2 様々な根拠をつけて伝えよう。

【事例】第5話 経験も事実も根拠になる
あなたとさとしは、学食で就職活動のエントリーシートを書いている。夏にインターンをすることにしたようだ。

 エントリーシートでは、自分の能力をアピールする必要があるんだよな。

 そうだよな。俺はなんといってもリーダーシップかな。テニス部部長だしぃ。

俺は、しいて言うなら行動力かなぁ。でも、この間努先輩が言ってたけど、意見には根拠をつけないと伝わらないんだよな。自分には行動力があるっていう意見にどんな根拠をつければ伝わるだろう

そうだなぁ。お前の場合はこの間テニス部でユニフォーム作るときに、先頭にたってスポンサー企業集めてくれたじゃん。あん時、俺はこいつ行動力あるなぁって思ったぞー。

あぁ、そうだな。その経験を根拠として書いてみるか

 そのとき、今日も学食に食べてきていたつとむ先輩が通りかかった。今日も焼肉定食を手に持っている。

おー、お前らインターンに参加するらしいよな。お!エントリーシート書いていてんのか。ちょっと見せろよー。

そういうと努先輩は二人の文章をのぞきこんだ。

おー、二人ともちゃんと根拠をつけて書いてんじゃん。すげぇ、進歩!

あなたは、やっとつとむ先輩に認められた気がした。

んー、でも一見したところ二人とも主観からくる根拠ばっかりだな。実は根拠には客観的な根拠もあるんだ。どっち使ってもいいけど、知っておくと便利だぞ。

そういうとつとむは、満面の笑みで焼肉をほおばり始めた。

ほんっと、ここの焼肉定食は日本一だよな。これは俺の主観だな!

【解説】意見を強く支えてくれる根拠の必要性。経験(主観)でも事実(客観)でも構わない。

第1章で述べたように、相手に自分の考えを伝えるためには「根拠」が欠かせません。相手に自分の意見を伝えるためには「なぜそう考えたのか(=根拠)」を一緒に伝えた方が、より伝わりやすくなるのです。
根拠として使う時には、「それが自分の経験からくる根拠」なのか「事実から来る根拠」なのか引用先を明示して使います。より、伝える相手との認識の齟齬をなくすためです。自分の経験から来る根拠であるならば、”自分の○○という経験によると・・と明示します。今回の例でいうと、さとしもあなたも「テニス部での経験による」根拠を示しています。 
一方で、事実から来る根拠もあります。例えば、さとしがリーダーシップがあるということを事実の根拠で示すとしたら、「さとしが実践したマネージメント方法は、海外で効果が発表されており、A社の業績が30%upした方法である。」などです。また、様々な文献から根拠をもってくる場合もあります。その際は特に明示が必要です。そうしないと盗作になってしまいます。最近、ビジネスマンやビジネスウーマンを中心に一部の大人にもその引用先を示せずに自分の知識のように宣伝されているかたが多いのは残念なことです。

事業計画やビジネスモデルなどの仕事だと根拠に数字を用いた知識を見つけておくことが先ほど書いた考え(アイデア)を強力に支援することになり効果的です。
しかし、根拠は、数字で表されるものだけではありません。根拠には、客観的なモノと主観的なモノがあり、主観的な根拠(自分自身の経験談など)もしっかりと自分の意見を支えてくれるものがあります。

カテゴリー: 第3章 –  

第2章 コミュニケーションって何だろう(1)

~コミュニケーション3つの要素~

先日のつとむ先輩との会話で、やっと就職活動への意識が生まれ始めたあなたとさとしは、大学の生協でさっそくエントリーシートを買うことにした。

この前のお前、やばかったよな。つとむさんにくってかかってさ

あれは・・・、否定された気がして、ついかっとなっただけだよ。今となっては、まじきまずいよ。

だよなぁ、正直しばらくつとむさんには会いたくねぇよな。

だよなぁ

あなた達の背後で雑誌を読んでいた人が、二人の会話に相槌を打ってきた。

・・・・・まさか、な。

あまりにも聞きなれた声に、二人は血の気が引くのを覚えながら、ゆっくりと振り向いた。

つとむさん!!!!

俺は会いたかったよ、お前らに。なんだよ、会いたくないなんてよー

先輩!この間は本当にすみませんでした。つい、かっとなって・・・。

全く気にしてねぇよ、そんなこと(笑) 若さっていいよなぁ。ところで、その後、二人ともちゃんと志望理由考えてみたか?

はい!つとむさんの言われたように、何でテニス雑誌を創りたいと思ったか、その理由を洗い出したり、テニス雑誌が今どのくらいあってどんな内容か調べたりしました

そうかそうか、えらいな。

で、今その調べた内容をまとめてエントリーシートに書いてみようとしていたところです!

二人ともえらいな。ちゃんとコミュニケーションを成立させてるな

え、コミュニケーションっすか?

【解説】コミュニケーションにおける3つの要素

コミュニケーションは、伝える・聴く・構築するという3つの要素から成り立っています。伝えるとは、自分の考えを相手に伝えることです。一般的には、これには文章によって伝えることや、会話として伝える事、また絵や写真などで伝える事全てが含まれます。本書では文章や会話で伝えることに限定して解説します。次に“聴く”ですが、これは相手の話を聴くことや、新聞や本から情報を得ることも含まれます。そして構築、聞いた情報を自分の意見として組み立てる事を構築と呼んでいます。日ごろのコミュニケーションはこの3つを連動させることで、行われているのです。
”伝える”から始まり、”聴く”と”構築する”を経由して再び“伝える”に戻ることになります。

カテゴリー: 第2章 –  

第1章 なぜ伝わらないの? ~コミュニケーションの不思議~ (1)

1-1 あなたの言葉は相手によって解釈される

【事例】第1話 さとしのラケット

暖かい日差しが街中を包んでいる。今日から4月、新たな学期がスタートする月だ。あなたは、いつものように10時過ぎに大学行きのバスに乗り込んだ。バスは新入生のおしゃべりで溢れかえっていた。話し声はするものの、バス中に1年生ならではのぎこちなさが充満している。
そんな時、あなたの友人であり同じテニス部部長のさとしが声をかけてきた。

おはよう!4月ならではの混み具合だよなぁ。いやになっちゃうぜ

 バスの中でさとしの大声はいつも以上に響いた。新入生が驚いた様子でこっちを見ている。
恥ずかしい気持ちになったあなたが、目を伏せると、さとしの手元にま新しいテニスバックが見えた。

さとし、それ買ったの?新しいバック?

と、思うだろ?実は新しいのはバックだけではないのです!実はテニスラケットも買っちゃった!

というと、さとしは混雑するバスの中でわざわざラケットを見せてくれた。青と黒がグラデーションになっているフレームに、蛍光色のガットが張られている。

高かったんだぜ。春休みに必死にアルバイトした金、全部つぎ込んじゃったよ。

ということは4万くらい?

ばーか違うよ。これ、10万すんだよ!4万なんて安い安い。

よくよく聞くと、さとしは春休み10日間、ずっと日給1万3千円の日雇いのアルバイトをしたらしい。あなたはというと、馴染みの喫茶店で自給600円のアルバイトを気が向いたときにしていた程度。そんな調子だったからあなたが春休みを使って稼いだお金は4万程度だったのだ。

(あー、もっと働いて俺もラケット買えばよかったなぁ・・・)

【解説】人によって言葉の解釈が異なることに要注意

言葉とは、人それぞれの尺度で解釈されています。例えば、「熱い」という表現も、人によって熱いと感じるレベルが違ってきます。そのため、コミュニケーションをする際も、あなたが考えた意見が、あなたが考えることと全く同じように、相手に伝わることはありません。投げかけた言葉は相手の解釈に委ねられるため、度々齟齬が生まれてしまうのです。
第1話の会話の中で、さとしが「高いラケットを買った」事を教えてくれました。しかも、その高さはアルバイトをしたお金を全てつぎ込むほどだったそうです。その情報をきいて“あなた”は4万円だと想像しました。それは、あなたが春休みに行ったアルバイトの合計金額が4万円だったからです。このように、言葉は相手の経験や知識を使って解釈されるのです。つまり、ここではさとしの言った「高い」という言葉に、さとしが想定しない様々な意味が生まれてしまっていたという事になります。さとしにとっての「高い」とあなたにとっての「高い」は意味が違うのです。
さらに、その後にさとしが言った「これ、10万円するんだよ。」という表現に注目してください。ここでさとしは数字を使って“金額の高さ”を説明しました。このように、数字を使い説明をすることはコミュニケーションの齟齬を生まないための重要なポイントです。数字を使うことにより誰もが共通の認識を持つことができます。10万は私にとっても、貴方にとっても10万という同じ意味を持つからです。

これは、「セマンティクス(Semantics=the study of the meaning of words and other parts of language by Longman Dictionary)の共通化」と言う作業です。

補足:セマンティクスの共通化
数字がコミュニケーションにおいて強力なのには根拠があります。それは数字を用いた表現が多くの人に共有な認識として受け取られるからです。例えば、沢山のお菓子と言った場合、人によって“沢山”を判断する基準が違うので頭の中ではお互いがそれぞれの基準でお菓子の数を想像している場合があるのです。これが数字を用いて「10個のお菓子」と表現した場合は先ほど「沢山のお菓子」と比較すると多くの人に同じ認識で受取られるようになります。

 この世に読者であるあなたと全く同じ考えをする人間などいません。つまり、他者と言葉を交わすコミュニケーションにおいて、自分の発した言葉をあなたの思うとおりに解釈してくれる人はいないということです。
コミュニケーションは伝わらないのが前提なのです。それをいかにして齟齬なく伝えるかを考える事が大事なのです。

カテゴリー: 第1章 –  

第1章 なぜ伝わらないの? ~コミュニケーションの不思議~ (2)

1-2 あなたの言葉は相手によって解釈される

【事例】第2話 アイディアだけじゃ伝わらない

あなたが通う大学には、美味しい学食があります。そこで、あなたがテニス部の仲間たちとご飯を食べていると、テニス部のOBで今は出版社に勤めている努先輩がやってきました。努先輩は、学食が安いことを理由に、卒業した後もお昼を学食で食べている変わった先輩です。

よぉ、お前たち。いよいよ3年生だよな。

つとむさん、今日も学食でお昼っすか?

ここ、安いから離れられねぇよ。そういえば、お前たちも就職活動が始まるだろ?どこ受けるとか決めてんのかよ?

俺らは、つとむさんのいるA出版受けますよ。

なんか、先輩見てると毎日学校来てるし、楽しそうだし、いーなーって思って

おー、そうかそうか。じゃ、うちの会社入って何やりたいのか、ちょっと話してみろよ。

いきなりの振りに、あなたもさとしも戸惑いながら、会社に入ってやりたい事を話し始めた。

俺は、A出版に入ってテニス専門誌をつくりたいです。

俺もテニスの専門誌つくりたいです。今テニスの雑誌って超少ないっす。ラケットやシューズを買うときとか、本当に困るんですよね。それぞれのスポーツメーカーのカタログだと、褒める記事しか書いてないから、本当のところがわからないし。こう、ドカーンと大胆な構図で色んな会社のテニスシューズがカラフルに並べられて、通販で買えちゃうようなそんなページ担当したいっすね。

つとむはお気に入りの焼肉定食を食べながら二人の話を聞いていた。そして、二人が話し終わると同時に、深い溜息をついた。

今の段階じゃ、さとしが及第点で、お前は失格だな。

え、俺のどこがだめだったんすか?確かにさとしみたいに長くしゃべれなかったけど。だいたい、先輩ちゃんと聞いてなかったじゃないですか・・・、食べながらだったし・・・。

俺はちゃんと聞いてたよ。じゃぁ、はっきり言ってやろうか。お前のダメなところはな、アイデアだけで語ったところだよ。

アイデアだけで語った・・・・???? え、それどういう意味っすか?わけわかんないっす。

お前呼ばわりされたあなたは、真っ赤な顔をしてつとむに迫っていく。そんな二人の様子に、周りの部員は息を呑んでいた。

【解説】アイディアだけじゃ伝わらない

ビジネスの現場でも就職活動でも、よく「考えを述べよ」という設問に出会います。
そのとき自分のアイデアを“そのまま”“それだけで”述べてはいけないのです。それは、考えやアイデアは評価が難しいからです。
実際、第2話で主人公のあなたが語ったアイデア「テニスの雑誌を創りたい。」は、良いも悪いも評価ができない答えです。一方で、さとしの意見はアイディアだけでなく、浅いとはいえ、なぜそれを考えたかという「根拠」まで語られています。ここまで語る事が出来ると、話す相手があなたの考えやアイデアがどのようなものなのかを正確に理解できる手がかりが生まれます。さとしは、根拠から想像すると、テニスのグッズが各社比較できるような特集があり、さらにはそれを誌上通販で買える雑誌をつくりたいようです。ここまで伝わると「テニスの通販雑誌は他にもある」とか「グッズの比較はネットで盛んに行われている」など、その意見に対して初めて良い悪いの判断ができます。このようにお互いの意見をぶつかり合うところまできて初めて、相手に伝わったといえるのです。

カテゴリー: 第1章 –